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2006年9月 4日 (月)

「美味しい」ということ

昨日、書棚にあって随分と開いていなかった本を手に取りました。
「言葉は今日でつづられた。」という青幻舎という出版社の京都モザイクというシリーズの7巻です。

パラパラと中原中也から、梶井基次郎ら詩人や文学者の言葉を眺めるうちに、今日とりわけ目に留まったのは「京、食する審美」という項でした。

「美の源泉は自然であり、美味の源泉もまた自然にある。」

北大路魯山人の言葉だそうです。さらに、解説によれば「食材を最も活き活きと目覚めさせる調理に誠心を尽くした。彼の調理場から出る廃棄物は極端に少なかったという。『冥利に尽きぬことはするな、全部生かしてもらいたいために材料が呼んでいるから、それを絶対に生かせ。この材料の声を聞け』。人として自然の中に在ることを自覚する。人として自らが授かった感覚への自信をもつ。それらの結実が、美しい味を生んだ。」とあります。

実はこの本、私にはちょっとした思い出のある本です。
買ったのはちょうど修士論文を書き終えた時でした。その他のあらゆるものを排して取り組んだ10ヶ月に及ぶ研究と執筆。それは、充実した作業であったと同時に、何かこれをずっと続けて行ったら人間として不具合が生じるような感覚に襲われていました。

何故か?

それは、研究という作業があまりに論理的なものだからです。特に、論文を「書く」という作業は、理路整然と理屈を通し、相手を説得する、というまさに”作業”だったのです。心理学という心を扱う学問といえど、心理学はやはり学問であり、扱う対象がたとえ人間の主観的な世界であろうとも、ひとたび論文を執筆するという上では、根拠を持って、論理を通して、客観性を持って文章を作成していく「作業」です。

そのような「作業」を続けた結果、私はほとんど感覚として、心の通った言葉を欲したのでした。そのとき、ただ偶々書店にて目にした「京」という言葉と「言葉」という文字。それは西洋から輸入された心理学という学問にどっぷり浸かっていた私には、ひどく魅力的に思われたのです。

さておき、この魯山人に関する文章を読んだ時に私は、心の欲するものを手に取る、という形で購入したもう1冊の本の存在を思い出しました。

辰巳芳子著「いのちをいつくしむ新家庭料理」

私は随分昔から日常的な趣味として料理をしてきました。深夜に帰ってきても、料理をすることを苦に感じたことはそれほどありません。料理の本も沢山持っています。もうかれこれ15年、料理という行為を続けてきました。

けれど、この本に描かれている料理に対する姿勢は、私の持っているどんな基本書よりも、おしゃれなレシピ集よりも、ずっと心に響きました。ここには、手を抜く、ということがない。食すということ、料理ということにある種の哲学がある。そういうと随分敬遠されるかもしれませんが、あるべき基本をきちんと踏んで、料理が作られて行く、恐らくそれがこの方の料理の本質ではないでしょうか。良い食材選び、あるべき手順で下準備をし、出汁をひき、一つ一つの手順において自分の味覚と対話しながら調理をする。

毎日のことだから頑張りすぎず、多少は手抜きをしちゃうーこの感覚は大切であるように思います。
けれど、毎日のことだから自らと家族の体をいたわり、基本に忠実であるーこれも生きる姿勢として非常に重要なことではないでしょうか。

私はいい加減な人間なんだけど、同時にどっかとても頑固で筋を通したい所があります。で、基本的に「お手軽」ってことがあまり好きではない。まずきちんとやって、在るべきシンプルにたどり着く感じが良い。最初から手抜きでラクをしたくないところがあります。実際には、忙しさに負けて、手を抜いちゃうのが現状ですが。出来る時にはちょっと頑張ってみようかな。で、続けていれば習慣化してくるでしょう。幸い料理は好きなので、案外手間ひまかけるのはいやじゃない。

なんか素敵じゃないですか。ちゃんと出汁とかスープがおいしくとれて、家庭料理がおいしいのって。生活の基本がなってる感じで。そんなわけで、今日はスーパーで久々にだし昆布を購入したのでした。

それにしても「おいしい」という言葉、漢字で書くと「美味しい」。なんとも素晴らしい言葉ですね。

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