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2006年9月26日 (火)

パラドックス定数「38℃」

「まず最初に伝えておく。
 我々に交渉は通用しない。
 此処には58名の人間がいる。
 我々の仲間でもないし人質でもない。
 この先どうなるかは全てそちら次第だ。 
 今はこの状況だけを頭に叩き込んでおけ。

 閉鎖された病院の一室。
 三人の医師と三人の制圧者。
 そして物言わぬ殺人ウィルス。
 致死率84.7%」

昨日は、渋谷spaceEDGEにて、劇団パラドックス定数の"38℃"、見て来ました。

以前にもここの作品は観に行った事があって、非常に私好みで感銘を受けたのですが、今回もよかったですね。

まず、ひどく硬質。台詞の一言一句が非常に堅い。そして冷たい。
そして、押し寄せてくる緊張感。見るものが一歩も動けないような張りつめた場。
こうした作品のもつ空気、世界観。

病気と薬に関わる人たちの、エゴイズムと感情のぶつかり合い。一つの出来事をめぐって展開される、7人の人物の描き方が秀逸です。

才能在るものに嫉妬しながら、恐らく立ち回りの上手さで現在の地位に昇ったのであろう大学病院の助教授。自らが何を手にしたかったのかも、すでに忘れ去っていたのかもしれない。
自らの才能を確信しながらも、力在るものの下でしか生き残れない不敵に歪んだ大学病院講師。その意図の計り知れなさは、見る物に不気味さを感じさせずにはおこない。
野心も情熱も、そして若さゆえの未熟さも持ち合わせる研修医。自らの職務と命の重さに震撼する。
遺族を”そのウィルス”によって亡くした製薬会社の営業。その死と現実の直面できず、どこへ向かおうというのか。
助教授に振り回される製薬会社の研究者。平凡な自らの才能を自覚しながらも、同時に助教授への敵意を隠さない。
ウィルスの特効薬を完成させながら、助教授によって社会的に追いやられようとする薬剤の研究者。研究者という自信とエゴイズムは彼に極まる。
そして、世渡りの出来ぬ、ただ無骨に事実に向き合うだけの医師。患者の身体に向き合い、死に逝く自らの死のデータに向き合った彼は、かくして患者の心の向き合う態度も、同僚とつき合う術も知らない。

緊迫する中、冷たくも張りつめた台詞から、次第にそれぞれの背景や感情が明らかになり、ついには感情のぶつかり合い。終盤の人間らしいエゴイズムの相克は見物です。私たち観客は「此処に居る58名」の一人として「目撃者になる」。そんな体験も初体験で、余計に緊張感があった。

さて。此処からはまったく個人的感想。
今回の芝居、分野は違えど「研究者」という点と「大学への生き残り」という点では、私にはかなり身近なテーマであります。
純粋なる研究者とはおそらくエゴイスティックな生き物である。だって、己の興味の追求を仕事にしてしまったのだから。
しかし、同時に研究者とは研究の外では生きられない種類の社会性のない生き物でもある。人一倍肥大したエゴイズムで、社会を生きていく事は非常に困難。
それは、とりも直さず崖っぷちで己の才能の限界に向き合うことを強要します。研究者としてやっていけなければ、生きる場所がないのですから。しかし、研究を続けていけば、才能の差は歴然。その事実を受け入れるのは、己の自我を脅かすものであります。その前で苦悩する人間を、ここ数年私は見てきたように思います。

しかし、同時に、大学とは政治の場である。
世渡りが必要である。時に、真に才能のあるものですら駆逐されかねない、そんな場でもあるのです。
逆に、才能は二流でも世渡りで生き残っていく人間もいるわけです。もしかしたら世渡りの下手な天才よりも、世渡りの上手な二流の研究者が残っているのかもしれません。(そうでない、と信じたい所ですが。ここは恐らく誰の下につくのか、運のようなもので決まっていくかもしれませんね)

狭い研究室。そこには名誉と、そして分野によってはお金が、そしてその位置からは社会の蜃気楼が見えるのです。研究の与えるインパクトの大きさから、肥大したエゴイズムはさらに膨張を続けられる・・・。そんな、大学という場と、研究の才というものをめぐるエゴイズムが非常にうまく描かれていたように思いました。

硬派でいいですね!こういうの好きです。笑い一切無し。手加減なし!みたいなの。

さて、最後に。ところで研究を続けてきた私は?
だから大学を去るのです。どちらにもなれないんですもの。

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コメント

最後の2行って…!?
そのまんまですか??
晶子先生!

投稿: せんちひ | 2006年9月26日 (火) 10時39分

そのまんまだよー。
とりあえず今年度が終わったら、大学から離れるんだー。
博士号は取るつもり。
うーん。自分の予定では10年位は大学には戻るつもりはないなー。
研究は続けていくつもりだから、10年くらいやって、現場での実践の経験と、研究の実績を積んで、年齢も重ねて、いきなり助教授くらいのポストで大学に戻れる時が来たら(来ないかもだけど)、大学に戻るかもね。大学で下積みってなんか雑用ばっかりで無駄でねー(笑)。
才能が中途半端だから、+αのものとして政治よりは実践を売りどころにした方が、随分良心的だろうと思ってね(笑)。

投稿: あき | 2006年9月26日 (火) 23時58分

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