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2006年5月 3日 (水)

「『ニート」支援マニュアル」/ー改めて何かを批評することについてー

この業界の方なら言わずと知れた「育て上げネット」の工藤啓氏の著作。随分前に買ってあったんだけど、工藤さんの文章はかなり小さな専門雑誌の記事まで読ませて頂いているので、ちょっと手を抜いちゃってました。読んで改めて、読んで良かったな、と。

ニート関連の書籍として考えるならその良さは2つあると思いました。
1つは、話が非常に具体的だ、というところです。そして簡潔。話としては支援の現場や関係者ならそんなに真新しい、というわけではないかもしれません。少なくとも、少しニート関連について読んだことがある、支援の現場にいたことがある、という方ならば、「うんそうだよね」という内容が、簡潔に網羅的に示されている。逆に、全然知らない人が読んでも、なるほどそういことか、と分かるような具体性がある。
2つ目は、自分の経験や主張だけではなく、視点やトピックが広くフェアである、というところです。この著作は自分の経験に裏打ちされてはいるものの、それだけではなく、他の支援者の人の目線や意見、現場状況も視野に入れたフェアで気持ちのよい感じがあります。

ただ、この本って誰が買って読むんだろう?ってのも正直あります。本書の構成も章ごとに目線が明示されているのですが。で、勝手に(笑)買った人ごとにどんな面白みがあるかな?と思って考えてみました。基本的に読みやすい書ですので、どんな立場の人でもトピックを拾い読みしながら、電車の時間を使っても読んでいける、親切な書です。

で、色んな立場の人を想定してみて・・・・。

もちろん現場の支援者。自分の目線と比較しながら読んで頂けると面白いと思います。うんそうだよね、というのも沢山あるでしょうし、見落としていたな、というのもあるでしょう。また、各機関や地域ごとに置かれた状況はきっと異なっているでしょうから、そうした自分が向き合っている問題を少し相対化してみるのもよいかもしれません。また、この簡潔さは自分が現場で相談にいらした方に対してどのように説明するか?という上で参考になるようにも思います。

もちろん当事者・ご家族。自分の、あるいは自分の家庭とは事情がぴったりこないでしょう。それはそうでしょう。ニートというのはある社会的な状態像を示す言葉であって、個々の置かれた事情まで含む言葉ではないですから。でも、支援機関の探し方やつき合い方なんかには参考になる部分があるでしょうし、本屋さんで立ち読みして「うんうん」と必要なトピックだけ読むのでも良いかもしれません。それこそネットでの検索の仕方なんかまで書いてありますから。

あとは、学校や行政関係の方など直接ニート支援をするわけではないけど、関連する機関や子どもを育てていくことに関わりのある方々。ニートというものがどのような問題で、どんな支援があるのかを勉強するには非常に分かりやすい書だと思います。

それと。良くも悪くもニートという言葉を口にしたことのある一般の方々。印象論で語る人が多すぎる。私もニートに関する批判を口にする人たちをみたことが何度もありますが、だいたいおかしなこと言ってますよね。まずは少しは知って、それから批判するならする、というスタンスをとってほしいな、と思ったりします。

うーん。最後のは・・・。社会問題から、それこそ映画に関するブログなんか観てても思うんですけど、世の中印象と好き嫌いだけで物事を判断するってことが横行してますよね。視野が狭くて、独断に溢れている。もちろん自分の意見を言うことは大切なんですけど、単なる好き嫌いや独断で語りすぎる、というのは非常に怖いことだと思っています。そんな意味で最近共感した文章を引用して終わりたいな、と。全然ニート支援と離れちゃうけど。なんだかニート批判とかニート批評なんかを見ていると嘆かわしい時もあって。

「批評という行為には、自分が実際に経験した事柄以外へと開かれていく、外部的な視座・観点というものが不可避的に必要になってきます。例えばこの講義で学習してきた『歴史』というものも、私たちの外部にあるものです。個人の嗜好、経験、身体性、心の問題といったパーソナルな要因が批評に必要なのは当然のことですが、実際に批評を書こうとするにあたって、そういった個人的なファクターと外部からの批評視座とのあいだには、必ずノイズや軋轢が生じます。自分の身体の反応と、外部から与えられた教育や歴史との相克というものを、記述の中にどうにかして捩じ込む。という行為が批評だと言えるわけですが、昨今ネット上などで見られる批評の多くは、外部に目を向けるのは苦しいからそういった擦り合わせをまったく放棄して、自身の身体性一辺倒で物事にあたる、といった方向に塗りつぶされているのが現状だと僕は思っています。こういった態度から何が生まれてくるのかというと、現在の自分の尺に合ったもの、気に入ったものに関しては『偏愛』する、で、気に入らなかったものに関しては『滅茶苦茶なクレーム』をつける、といった、ある種の心理的暴力とも言えるような批評が増加することになります。これはさ、インターネットっていうツールが持っている外部遮断力の高さにも原因があると思うんだけど、現在、どのような分野においても、いわば『分断して統治する』っていうシステムが是とされているわけですね。こうした状況が招いた事態ですが、そういった現在だからこそ『何かを勉強して何かを批評する』という作業が非常に重要であると思っています。」
(菊地成孔、『東京大学のアルバート・アイラー』(p.244-245)より)

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