« 「『ニート」支援マニュアル」/ー改めて何かを批評することについてー | トップページ | 「社会不安障害のすべてがわかる本」 »

2006年5月 4日 (木)

「誰も知らない」

”物語は長男・明が泥だらけの手のまま大きなスーツケースをなでながら電車に乗っているシーンから始まります。そして、場面は一転。母親と4人の子どもが楽しく暮らすシーンが綴られる。4人の子どものうち3人は戸籍もなく、4人とも学校には行っていない。戸籍のない3人はその存在を知られては行けないので、家の外には出られない。それでも親子5人、笑顔の生活。そして、ある日、母親がお金を置いていなくなる。1月ほどで帰ってくるものの、「クリスマスには帰ってくるから」と言い残し、再び出て行く。男の元へ。クリスマスになっても母は帰ってこない。末っ子の誕生日にもお母さんは帰ってこない。帰ってこない母親を待つ妹に長男は、「いつか羽田に連れてってやる。」と約束する。結局、母は春になっても、冬になっても帰ってこない。兄弟は次第に困窮していく。途中コンビ二の若い女性店員が「警察とか福祉事務所とか行った方が良くない?」と勧めるが、「いや、そうしたら兄弟が一緒に住めなくなっちゃうから」と。そうするうちに末の妹は病に倒れる。そして、明は親しくなった女子高生(女子中学生?いじめが原因で不登校中)と一緒に、妹を羽田に連れて行くが・・・。”

是枝裕和監督作品。「花よりもなほ」公開前にそれ以前の4作品を全部観ておこうかな?なんて思ってDVD借りました。うーん。色々なものが詰まった作品でしたね。

この映画、やはりドキュメンタリー出身の監督さんらしい作品。出来事と風景を綴っていて、そこに強烈な解釈を入れて筋を通していくタイプの映画では無いように感じました。ですから、私も現実世界を観る時と同じように様々な可能性と視点から書いてみたいと思います。

まず、キャラクターたち。

子を捨てる母(YOU)。物語の始まりでは子どもたちと母親の奇妙ながら幸せな家庭生活が綴られます。子どもと同じ目線に立って、楽しく子どもと生きていける母親。その関わりは温かく、上手いものです。でも一方で、それは母親らしく努力されたものではなく、天然で、本当に自分が子どもなのだろうと思いました。子どもの父親はそれぞれ異なっていますが、それを何のためらいもなく口にする。新しく好きな男ができれば、「ママ好きな人ができたの」と12歳の子どもに言う。「ママはわがままだ」と言われれば、「あんたのパパが出て行くからでしょ!一番わがままなの誰よ」と怒る。「学校行きたい」と言われても、「学校なんて行ってもしょうがないよ」と都合の悪いことには応じない。もちろん、彼女も苦しいのね。できれば4人の子どもを引き取ってくれる男と結婚したい。でも、そんな男どこにも居ない訳で。長男の父親は子どもと彼女を残して、家を出て行く。また、途中お金に困った長男は母親がつき合っていた男性二人の所を回ってお金をとりに貰いにいくんですが、この男たちも無責任。一人は娘の父親。くれたお金わずか5000円。養育費も送ってこないわけで、この調子じゃ。もう一人の男も子ども相手の態度じゃない。「オレもきついんだよー。彼女がカード地獄でさぁ」「ゆきちゃんオレの子じゃないからね。ちゃんと毎回コンドームつけてたから」だそうで。で、一応お金はくれる。やっぱり5000円。彼女は無責任な母親だけど、夜、人知れず涙する彼女だけを責めることはできない。「私は幸せになっちゃいけないの!?」、彼女の叫び、これも尤もなものであるから。

長男・明。演じるのは柳楽優弥くん。自然に演じてましたね。この少年12歳、という歳では立派すぎるほど、立派。でも、妹と弟を背負って生きていくのはものすごくプレッシャーだろうし、妹や弟に苦しい胸のうちは明かせないし。そして、この子もやっぱり子どもで寂しいのね。たまたま入ったゲームセンターから友だちができるんだけど、友だちとのつき合い方知らないの。友だちができたら、お金やもので繋がってしまう。それで家賃も払わなくなっちゃう。「おごってよ」って言われたら、おごっちゃうし。友だちに来てほしい時には「新しいゲーム買ったから家に遊びにこない?」と。とっても寂しい子。でも、曲がったことは出来なくて、友だちに誘われても万引きはできない。後半、仲良くなる不登校の女子高生(中学生?)が彼らのためにオジサンとカラオケで遊んであげてお金をかせいできても、彼女に淡い恋心を抱いているであろう彼は受け取れない。母親の電話番号を調べて、電話をかけても、結局何も言い出せず、自分で抱えてしまう。

その下の長女・京子。彼女はある程度大きくなっているから状況も分かっているのね。それが痛々しい。学校にもいきたい。ピアノも弾きたい。ママのようにマニュキュアを塗っておしゃれもしたい。

さらに下の弟と妹。二人はまだ小さくて状況を多分よく分かっていない。でも、その分、その二人が明に向ける眼差しはそれだけに痛いものがありました。

そして、映画そのものの作り。悲惨で救いようのないストーリーなのに、子どもたちを描く目線は温かで、子どもたちは生き生きしている。基本的にBGMのあまりない淡々と静かな映画なのだけれど、子どもたちの子どもらしい姿を描く時には音楽が流れる。この悲惨な状況の中で、それでもなお子どもたちは強くいきている。それがまた痛くてたまりませんでした。こんな風に子どもたちがいきていることも、冒頭に出てきたトランクの中に何が入っているのかも、この街の人も電車の中の人も”誰も知らない”。これは本当に恐ろしいことだと思いました。子どもたちの姿が子どもらしく生き生きしているからこそ、この子どもたちと社会との隔絶は恐ろしい。
その一方で、福祉事務所に行ってみよう、と単純に言えないものもあって。心理、という仕事を私がしているにも関わらず、それでも単純に言えないのは、明くんの「みんなで一緒に住めなくなっちゃうから」という言葉。そう。彼らは社会の誰からも知られず、ある種隔絶されて、この4人だけでやっといきている。その中でやっと笑える。それがバラバラになってしまうってことの苦しさ。児童福祉ってものが何をしているのか?もちろん、仕方の無い現実があることも分かっているけど、それでもなお児童福祉とは何をしているのか?何ができるのか?と考えました。

そして、映像の美しさ。何度も写真のように動きを止めてみせるんですよ。この切り取られた風景が絶妙。色も構図も素晴らしかった!写真集あったら買いますね、これは。

一人一人の描き方がうまくて、強烈に一つの意見を押し出す訳ではなく、ただ描き、綴り続ける、それなのに力のある映画です。恐れず観て下さい。

<>

<>


誰も知らない
DVD 誰も知らない

販売元:バンダイビジュアル

発売日:2005/03/11

Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« 「『ニート」支援マニュアル」/ー改めて何かを批評することについてー | トップページ | 「社会不安障害のすべてがわかる本」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/4558/1668283

この記事へのトラックバック一覧です: 「誰も知らない」:

» 誰も知らない [AML Amazon Link]
誰も知らない [続きを読む]

受信: 2006年5月18日 (木) 20時39分

» Thanks TB [AML Amazon Link]
Trackback ありがとうございます。またのTBをお待ちしています。 [続きを読む]

受信: 2006年5月19日 (金) 09時42分

» 誰も知らない [映画、言いたい放題!]
是枝裕和監督の作品を続けて。 カンヌ映画祭で最優秀男優賞を取った話題作で ビデオ屋ではずっと貸し出し中だったのですが やっと借りました。 アパートに母親と4人の子供が引越して来るところから物語は始まります。 周囲の住人には父親が海外に赴任している三人家族... [続きを読む]

受信: 2006年6月18日 (日) 12時42分

« 「『ニート」支援マニュアル」/ー改めて何かを批評することについてー | トップページ | 「社会不安障害のすべてがわかる本」 »