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2005年12月20日 (火)

「別れの後の静かな午後」

以前から、そのタイトルの言葉や響きから気になっていた大崎善生です。昼休みに訪れた本屋に、彼の本は2冊並んでいたのですが、私はなんとなく「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」ではなく、「別れの後の静かな午後」というこの本を手に取りました。短編集だと気づいたのは買った後でした。パラパラとめくった頁々に綴られていた文章の透明感や繊細さに惹かれ、数十秒で購入を決めたので。

1つの特徴はこの描写の美しさにあると思います。景色の描写はストーリーと主人公の心象を静かに描き出すに十分で、客観的な景色など無いのだと思いしります。いずれの作品も一人称で書かれているのですが、主人公の眼を通して描かれる景色は主人公の心象そのもののよう。また、時折なされる様々な比喩やメタファーも良かったです。

「戻ることのできない日々を思い出し、必至に手にかき集めても、結局は虚ろな寂しさが残されるだけなのである。思い出はどんなに、綿密に懸命に組み合わせていっても、一枚のパズルには仕上がらない。(『別れの後の静かな午後』より)」

もう一つはテーマ。6篇の作品はいずれも別れが描かれる。その別れの形も、別れの後も、それぞれの作品で違うのだけれど。いずれの別れも、激しい痛みというより、その激しい痛みを後になって思い出した時に感じる回想の切なさのような、そんな静かで寂しい別れです。その別れの顛末はそれぞれ異なっているのですが。そのまま永遠の別れになったり、再生を予感させたり、新たな出会いへとつながっていったり。いずれにせよ、私は、どこか後悔にも似て、けれども温かい、そんな心の底に大事にしまわれている思い出のような空気のするテーマ群に魅力を感じました。

そして、描写とテーマがマッチして、静かだけれど、心にしみる作品になっています。

好みはあると思いますが、私は好きですね。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆
センチメンタル指数:85%
☆☆☆☆☆☆☆☆☆ ☆☆

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別れの後の静かな午後
Book 別れの後の静かな午後

著者:大崎 善生

販売元:中央公論新社

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絵本でも、後世に残せるならそれは、作者冥利なのでしょう。 [続きを読む]

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» 別れの後の静かな午後<大崎善生>−(本:今年39冊目)− [デコ親父は減量中(映画と本と格闘技とダイエットなどをつらつらと)]
中央公論新社 ; ISBN: 4120035778 ; (2004/10) 評価:81点(100点満点) (ネタバレあります) 静かで透明で静謐な文章が相変わらず淡々と続く。 著者の世界観にどっぷりと浸ることができれば、本を読んでいて、これほど幸せな時間もあるまい。 ま、裏を返せば高....... [続きを読む]

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